管理会計、社会環境会計の研究をされている岡山大学の天王寺谷達将(てんのうじや たつまさ)准教授に、SDGsについてお話を伺いまいした。
SDGsとビジネスの付き合い方、価値創造の手段としてのSDGsについて、天王寺谷先生の見識をインタビュー形式にてご紹介します。
企業が使うとすれば、価値創造の手段です。
じっさいSDGsを掲げて事業を進めている企業が多くなっており、それ自体はいいことなのですが、なんでもSDGsに絡めて語る風潮があるようにも感じます。
既存の事業に無理やりSDGsを関連づけるよりも、新しくSDGs的なビジネスチャンスを作り出すことの重要性が高まってきているのではないでしょうか。
大企業でSDGs推進担当が多くなってきているなかで、中小企業にもそのような役職とか視点をもうけることは珍しく、御社(TCE)は先進的であると思います。
経団連に取り上げられたことの影響が大きいと思います。
経団連は、2017年にSDGsを企業行動憲章に盛り込んだので、そこから徐々に広まっていったのではないでしょうか。
具体的な指標を測定することと、それをモニタリングすることだと思います。
SDGsそのものにおいても数値目標が設定されているように、企業でもSDGsにかかわりうる指標を定め、それを測り、行動がどのように影響しているのかを正しく把握しないといけないと思います。
どの活動がどういう目標にむかっているのかを、はっきりさせる必要があるということです。
そこがまさに解決しないといけない課題だと思っています。
企業ではやはり「お金」という情報が強い存在感を持っているんですね。
企業におけるいろんなものの評価に金額のみを用いるのではなく、ほかの情報を使った評価や意思決定が必要なのだと思います。
ビジネスとは、利益の追求がすべてではないという価値観が大事です。
企業理念もビジネスの目的だし、ビジネスで得た利益は手段にすぎないという見方についてきちんと考える必要があると思います。
難しい局面も多いですが、SDGs的な事業が立派なビジネスとして成り立っている場合があるので、希望はあります。
TCEを含めそのような企業が増えているのではとないかと思いますね。
企業にとってはアピールの手段として機能していると思います。
しかし、あまりにも多くの企業がSDGsをアピールポイントにしているので、そのように使うのもいいのですが、賞をとるなどして目立たないと意味がなくなってきているところがあります。
さっき話したような、SDGs推進を掲げながらも具体的な数値などが提示されていないために活動の実質的な効果が見えない、というのも影響しているように思います。
企業が先ですね。まだ消費者意識の段階には至っていないからです。
それに、個人よりも企業のほうが(金銭的)余裕や、行動するための力を持っているとも言えます。
企業から個人へと、企業が示す立場となって消費者に働きかけるのがいいのではないでしょうか。
そういうイメージはありますね。
サーキュラーエコノミーという考え方もフランスがロールモデルとなっていて、研究においても先を行っていると思います。
また、サーキュラーエコノミーを国際的に推進しているエレン・マッカーサー財団も、イギリスを拠点にしています。
推進している企業側からすれば、そういうところがあるのは否めないでしょう。
金銭的な側面だけで判断すると、外部不経済がおこってしまうからです。
SDGsは国連にて加盟国の全会一致で取り決められています。
なので、SDGs達成のために行動すべき主体は政府です。
だからといって民間が無関係なわけではないので、企業が「きっかけ」として機能しているという点では、きれいごとであったとしても無意味ではないと思います。
できるかできないかというより、そこまですべきでもないのでは。
SDGsは流行りすぎている感じがありますね。
さっきも言ったように、きっかけをもたらしていることは有意義なので、SDGsに関する価値創造を実現できている組織はそれをアピールすればいいと思います。
なんでもかんでもSDGsにかこつけて語るよりは、という感じです。
資源の循環を捉えた経済システムである「サーキュラーエコノミー」の枠組みの中でビジネスを成り立たせている点ですね。
サーキュラーエコノミーでは、3R(リユース、リデュース、リサイクル)に明確な順位をつけています。
そもそも、リサイクルなどにはコストがかかります。
TCEが事業とされているリユースに関しては「バタフライダイアグラム」という、サーキュラーエコノミーを図式化したものを見てもわかるように、比較的に小さなサイクルですみますが、これが大きくなるとコストも環境負荷も大きくなるのです。
あらゆる無駄の少ないほうが経済にとっても環境にとってもいいですよね。
いろいろな価値基準が必要になるところだと思います。
金額評価だけに価値基準を置くのではなく、ほかのものとのバランスのつけ方を決めなければなりません。
また、SDGsはゴールを示しているだけなので、それをどのようにやるのかは、活動主体に委ねられています。
それはいい点でもありますが、方法が示されていないことは、うまくいくもいかないもアクター次第ということです。難しいですね。
やはり数値化が重要です。
例えばですが、リユースパソコン1台につき環境負荷がどれだけ低減しているのか、また販売台数と掛けて一期分を計算するなどが考えられます。
数字で示すことができれば、改善効果が見える化され、それだけ説得力も上がりますからね。
カーボンフットプリントは、昨今よく耳にするポピュラーな指標ですね。
地球温暖化と気候変動に直接かかわっているので、どんな人や組織も無関係ではありません。
あとは、パソコン一台の寿命が実際にどれだけ延びているのかをデータにしてもいいかもしれません。
TCEは、ビジネスそのものがSDGs的です。したがって積極的にSDGsに取り組んでいると言えるようになるためには、具体的な数値化や、リユース事業それ自体以外のことにも目を向けた取り組みが必要だと感じます。オフィスや倉庫のカーボンニュートラル化や、環境にやさしい梱包材の使用、従業員の多様性の確保、その他外部への支援など、できることはいくらでもあると思います。利潤追求だけでは手に入れたり、測ったりすることのできない、企業の価値や力とは何なのかを考えさせられました。
天王寺谷 達将氏について:https://partners.okayama-u.ac.jp/seeds-detail?id=2684